あの日
2月8日は、あの日と呼ばれるようになった。
あの日…私は仕事が休みで、いつも通り自分の部屋で昼過ぎまで寝ているつもりだった。二度寝 三度寝を繰り返している頃、突然お母さんが部屋のドアを開けて言った。
「さえちゃん大変、りなちゃんが、、、亡くなったって。」
「いま、ニュースでやってた、どうしよう」
今でもその言葉を声を覚えている。
母の焦った声、自分の心臓が熱くなる。
すぐにiPhoneでTwitterを開き「りななん」で検索した。「えっ?」という言葉と共に、母が見たニュースをキャプチャした画像が並んでいた。
「いやいやいや、嘘でしょ?なんで?なにこれ?なんで?まだ話してないことたくさんあるよ?舞台とかライブとかは?なんで?嘘でしょ?、、、、」
何に泣いているのか分からないが泣き叫んだ。
母は心配して一緒に泣いてくれた。
ヲタクの友だち、推し被りの友だちのことが頭に浮かんだ。連絡した方がいいのか分からない。何が正しいのか分からない。そして、本当に死んだのかも分からない。
分からないまま、グループラインに「。」だけを送った。私はニュースを見たよ、と。それを伝えたかった。
そのあとはずっとTwitterを見ながら情報を追っていたが、公式の情報が出ない。皆が驚いているだけだった。
電話が鳴った、推し被りの友だちだった。
彼女は泣いていた、会社の昼休みに知り、泣きながら、社内の階段を降りていただろうか、電話越しの泣き声が響いていた。二人で泣いた。でも、分からなかった。「まだ本当かどうか分からないけど」「いやでもニュースで」「とりあえず無理じゃない?」「仕事どうする?帰った方がいいよ」
冷静だった。
知った直後は、涙が溢れたが、落ち着くとかなり冷静になるのだ。自分の体を飛び出して、外から見ているようだった。人間の本能として備わっているのかもしれない。極度のショックが訪れると、脳や体が守ろうとするのかもしれない。友だちとの電話でも、時々冗談のような話もした、笑ったりした。
二人とも少し落ち着いたので、電話を切り、何かあったらすぐ連絡すると言った。
母が心配していると思い、リビングに向かった。母の顔を見ると泣いたあとがあり、それを見て泣いた。「なんでだろうね?」「情報がまだ出てないんだよね」二人でインターネットニュースを呆然と見た。少しして、昼ごはんを食べたような気がする。
それからの記憶は曖昧だ。
眼科にコンタクトを買いに行かなければいけなかったので、外に出た。色んな人から連絡が来る。すぐは返せなかったが、診察待ちの間に少しずつ返していった。「信じるとか信じないとか分からない、今はただボーッとしている。」そんなことをみんなに送っていた気がする。
眼科が終わって本屋に行った。莉奈が載る雑誌が今日発売だったはずだ。探してみるとあった。それと一緒に少し前に発売されていたLARMEも買って近くの椅子に座って読んだ。
莉奈は制服を着て笑っていた。高校卒業特集だった。これからはプロの中学生になる!と書いてあった。
「これから」
いてもたってもいられなくて、莉奈が好きだった曲、スターダストライトを聞いた。全力ランナーを聞いた。私立恵比寿中学のプレイリストで目につくものを選んでどんどん聞いた。
涙がまた出てきた。
やっぱり意味が分からない。
それでも私は泣いている。
信じていない、けれど泣いている。
その日々が「あの日」から始まった。